2014/07/15

読書感想文)廉 宗淳(ヨム・ジョンスン)著「行政改革を導く 電子政府・電子自治体への戦略」

 先に言っておくが…これは書評ではなく、読書感想文である。

 IT戦略や電子自治体、もしくは電子教育とかに関心がある方なら最近、佐賀県がどれだけIT関連行政に力を注いでいるか知っていると思う。その具体的な政策の賛否はともかく、佐賀県が行っている電子自治体への取り組みは実際に今まで日本政府が行ってきた事よりもはるか使いやすく、実用的で、効率的であると評価されている。
 それもそのはず、この本の著者である廉(ヨム)さんはプログラマーとして韓国で起業し、それから日本に渡り日本でもITコンサルタント会社を起業して現在は佐賀県、青森県の情報政策を任されてそれらの電子自治体への政策を進めてきた方なのだ。
 以前、パラパラっと読んだのだが、論文が行き詰ったためもう一度精読することにした。



廉 宗淳(ヨム・ジョンスン)著
行政改革を導く電子政府・電子自治体への戦略
時事通信社
2009

 この本は前作である「『電子政府』実現へのシナリオ」(2004、時事通信社)から5年経った2009年に出版されたされた著書。前作は日本への提言が主な内容であったが、今回は「なぜ韓国の電子政府化・自治体化は進んだのか」という所に重点を置いて書かれている。その中でも主に盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権での電子政府政策の推進過程が後半(3章から5章)のほとんどを占めている。
 
<おすすめポイント>
 1)日本の公務員、特に中央にて電子政府・地方にて電子行政を進めている方々にはぜひ読んでほしいと思った。政策立案の立場にある国会議員、首長、地方議員にも読んでほしい。日本で電子行政推進においての問題点がほぼ網羅されている。
 2)僕も「じゃ、韓国の電子行政は何がすごいの?」って聞かれる事が多い。もちろん、韓国にはすでに電子行政、電子政府関連の授業は多く、関連の先生たちが書いた電子政府関連の教科書(下記の写真)がありそれで説明してもよいのだろうが、痒いところに手が届くと言うか、日本語の説明・図・表・グラフなどがあるので読めば理解しやすいと思う。




韓国の電子政府関連の教科書
(左)オ・グァンソク(2010)『電子政府とu-パラダイム』,Jinhan M&B 
오관석(2010) “전자정부와 u-패러다임”, Jinhan M&B
-(中央)ミョン・スンファン(2012)『スマート電子政府論-情報体系と電子政府の理論と実際』,ユルゴック出版社 
-명승환(2012) “스마트 전자정부론 – 정보체계와 전자정부의 이론과 실제”, 율곡 출판사
(右)ジョン・チュンシク(2012) 『2012 電子政府論』,ソウル経済経営
-정충식(2012) “2012 전자정부론”, 서울경제경영

 3)現場で働いていらっしゃる廉さん個人の日本での経験談も多く、状況が理解しやすいかと思う。僕は読みながら「あーやっぱり」とか「まぁ、そうだろうなぁ」とか思った事が多々あった。特に「経験したことの無いことを理解させる事の難しさ」が至る所に散らばっていて、公務員特有の行政のロックイン、もしくは経路依存的な要素が立ちはだかっていることが読み取れた。

 などなど…。学術書ではないので、読みやすいのではないだろうか?
 関心があるなら、すうっと読める本なのでおすすめしたい。


 次は自分のやってることと関連して考えた事。
<考えたポイント>
 1)まず問題意識は同じ。つまり、「なぜ日本の電子行政はこんなにも進まないのか」という点であろう。

 ただし、大きく違うのは、廉さんは、

電子政府・電子自治体の政策推進 > (そのための) 行政改革

 と、説明していて大まかな点には同意はするのだが、僕とちょっと違うのは、

行政改革の推進 > (その過程での) 電子政府・電子自治体の政策推進

 であると思ってる点ぐらいかなぁと。つまり電子行政・電子自治体の個別の政策推進では行政改革は起こるはずはなく、逆に「行政改革」の枠組みの中で電子政府化、電子自治体化が無ければ、本当の変化は無い…ってな話。特に日本の場合、行政・政治構造の問題でこれを克服できない以上進まないと思ってるんですけどねぇ。
 もちろん、これは話の前後の差なんかではなくセットにするかどうかの問題であって…。まぁ、詳しい事はこれから論文で書きますゎ…。

 2)現場の人らしく、やっぱり実際に起きたことや接してる問題とかには詳しいと思った。なんども言うが、日本の方には1、2章だけでも読んでほしいなぁー。

 3)2009年の著書であるので、もう5年も前。それから日本じゃ相変わらず莫大な予算が電子政府・電子行政・電子自治体のために費やされているのだが、実際に便利になったのであろうか。僕が感じるのは「否」である。では、2014年現在はどうなのか?

 4)やっぱり経験したことが無い人にその経験や目的を伝えるのは難しい問題だと改めて気付いた。産業革命期に「蒸気で動く電車ってのがあるんだよ!」と伝えるぐらい難しいと思う。おまけに、「必要性」の観点からも目的を明確に持ってない人にそれを伝えるのはもっと難しいのではないかと思った。

 読んでからの感想としては、色々考えさせられることがあったので精読して正解だったと思って事かな。色々書きたい事、話したい事が増えました。

 廉先生に感謝。

 「だったら早よ論文書けや」と野次られそうなのが怖い…。





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